VS. SUPER MODEL
近頃何かとコストカット、コストカットと言いますけどね。
やれエアコンの温度を28度にしろやらね、やれカラーコピー禁止にしろやらね。
言いますよね?
ぬるい。
もうね、ぬるい。
その程度のコストカットなんぞ生ぬるい。
え、うちの会社ですか?
うちの会社は、製品カタログを作るにあたってモデル代をけちる為に僕をモデルとして登用するという恐ろしい判断を下すくらい厳しい。
というわけで今回はモデルデビューを果たした時のお話です。
2月某日。
午前3時起床。
モデルの朝は早い。
っていうか早すぎる。
身支度をすぐに済ませ、すぐに港へと向かった。真っ暗闇の中港へ向かう姿はモデルというよりはエスポワール号へ向かうカイジに近かったと思う。
港へ着くと撮影スタッフの一部がすでに待機していた。
撮影するボートを確認し、乗り込む。
乗り込むや否や、スタッフからあるものを手渡される。
そう、洗剤である。
今回モデルとして参加する僕であったが、同時に雑用、清掃も担当していた。
ユーティリティープレーヤー。
僕の事をそう呼ぶ人は残念ながらいない。
せっせと作業を済ませ、出航時間の5時となった。
が、出発しない。
一体何待ちなのか。
スタッフに聞いてみた。
スタッフ「ああ、プロのモデル待ちだよ」
マジでか。普通にプロ呼んでるのか。
てっきり今回はアマチュアしかいないものだと思っていたところにまさかのプロ参入。
少し度肝を抜かれたと同時に怒りがふつふつと湧き上がる。
いや、はよ来いよ?
遅れる事30分。モデル(プロ)到着。
僕「おはようございます!本日は宜しくお願いいたします!」
相手がモデルのプロならこちらは営業のプロ。怒りを微塵も見せずしっかりとあいさつする。
モデル「・・・。」
まさかの無視。
そして悪びれる様子も一切なし。
険悪な状態のまま船を出発させた。
移動すること40分。あたりは一面海のところまでやってきた。ここからいよいよ撮影がスタートする。
今回はやや大きめのフィッシング艇の撮影で、「運転手のアメリカ人おじいちゃん(撮影スタッフ)、南米系のセクシーなお姉ちゃん(プロのモデル)、そして謎の怪しいアジア人の兄ちゃん(僕)が皆楽しそうにスピードを出しながら走行している」というシーンをヘリからの空撮でダイナミックな動画と写真を撮る。
いや、もうね。何そのシーン。
確かにアメリカはやれ人種のるつぼやら人種のサラダボウルやら言いますけどね。異物を混ぜすぎ。絶対家族じゃないし、じゃあ友達かっていうと年齢層全員バラバラ。かなり無理がある設定。
まぁ、でも我々がメインではないんでね。いいんですよ、これで。
そんなこんなでヘリも準備ができ撮影スタート。
皆まずそれぞれの定位置へ向かった。運転手は運転席へ。モデルは運転席の左横へ。そして僕は右横へ行き、そこで立ってスタンバイした。
撮影中は基本的に座った状態ではなく、立った状態で行う。
それぞれがスタンバイできたところでヘリから無線で連絡が来る。
ヘリの人「準備はオッケーか」
運転手「いつでもオッケーだ」
ヘリの人「オッケー・・・レディ・・・アクション!!」
運転手「・・・よし、飛ばすぞ!振り落とされないようにな・・・!」
ブオオオオオォン!!調子よく回るエンジン。時速40キロ、60キロ、80キロ。スピードはどんどん加速していく。
ここでね、ちょっとご存じでない人のためにね。一個解説。
船にシートベルトはない。
僕は普通に振り落とされそうになっていた。
僕「い、いかん・・・!三戦の構え!!!」
ちょっとご存じでない人のためにね。解説。
三戦の構えとは古くからある空手の型の一つで、船の上や足場の悪いところでの戦闘でも戦えるように編み出された型で、揺れにめっぽう強くなる。刃牙で愚地独歩も使用していた由緒ある型である。
(愚地独歩の三戦の構え)
僕も「呼ッ」つってね、耐えてたんですよ。
そしたら無線で言われますわな。
ヘリの人「カーット!!」
ヘリの人「右側の人、へんな立ち方しないでください。」
まぁ、そうなりますわな。
撮影再開。
やはりフルスピードで船は走る。
どうしても耐えられない。僕は必死にシートにしがみつきなら耐えていた。
すると無情にもまた無線が鳴る。
ヘリの人「カーット!!」
ヘリの人「右側の人。笑顔じゃないですよ。笑ってください。」
いや、もうね。あんなきつい状態で笑えるの弱虫ペダルの小野田君ぐらいだと思うんですよ。どうしたってひきつってしまう。僕は残念ながら山王なんて異名は持っていない。とてもあんな状態では笑えない。
しかし、撮影はそのまま再開。
やはり当然のようにフルスピード。
僕はやはりシートにしがみつきながら、ひきつった笑顔で耐えていた。
しかし、ここで疑問が浮かんだ。
いや、あのモデルはどうやねん、と。
あんなプロ根性のない小娘がね、こんなハードな撮影をこなしているはずがない。
僕はひきつった笑顔のままふと左の方へと目をやった。
そこには凛とした姿勢で立っている女性がいた。
バ、バカな!!右手は自然とシートに添えてあり、必要以上に力を入れていない。当然三戦の構えもとっていない。いたって自然な立ち方。
表情はというともうそこはプロ。もう山王すぐそこにいましたわ。
しかも使っていない左手はなんかこうかっこよく髪をかきあげていたり、遠くの方を指さし、「あ、見て!あそこクジラが泳いでいるわ!」みたいなポージングを織り交ぜていく。
もうね、それでいったら僕はもう「あ、クジラ!」っていうのをこの20分ほどずっと無視してたわけですよ。かたやクルージングを楽しんでいる人、かたや必死に拷問に耐えている人みたいな。そんないびつな図になってたわけです。
そんな感じでスーパーモデルとの差を見せつけられ撮影は終了。
撮影スタッフやモデルさんに謝りつつ、僕のモデルデビューは幕を閉じた。
とりあえず写真等はもらっていないのですが、皆さんこれから船とかエンジンのカタログの写真を見るとき、足が八の字になっている人を探してください。
それ僕なんで。