しがない駐在員の日報(LA編)

駐在員とはなんたるかを綴ったドキュメンタリー的なブログです。

汗と涙とファイバーグラスの工場編ファイナル

7日目:

 

 

 

重い腰を上げて今日も早朝から出勤。三日ぶりの工場の臭いはやはり臭かった。

 

 

 

 

僕「おはようございます。今日はどちらへ行けば?」

 

 

 

 

人事「今日、明日はアセンブリーに行ってもらいます。」

 

 

 

アセンブリーとは組み立て工程のこと。エンジンを取り付けたり、電子機器の取り付け、その他シートやハンドル、細かいクローム部品などとりあず付けれるもん全部つけていく。ここの工場ではアセンブリーも4つに分かれていて、今日に二つ、明日に二つ回るということらしい。

 

 

 

とりあえず一つ目の工程に向かう。

 

 

 

 

 

僕「マイケルです、よろしくお願いいたします。」

 

 

 

 

マイケル「僕もマイケルです、よろしくお願いします。」

 

 

 

 

ついに名前かぶりきてしまったーーーーー!ややこしい!

 

 

 

 

ただこのマイケル、僕とは容姿が当然異なっていて、例えるならばハリーポッターを細長く190センチくらいに成長させて、少し筋肉をつけ、ひげもじゃにさせたような見た目をしている。

 

 

 

うん、もはやハリーポッターとは別人である。

 

 

 

 

このハリー(改)と作業を進めていく。

 

 

 

 

ここでは船の外周に細かい部品を取り付けていくのと、コンソールボックスに穴を開けていくという作業をする。

 

 

 

 

 

 

生粋のドリラーの僕は当然穴あけを担当する。

 

 

 

 

なぜコンソールボックスに穴を開けていくかというと、後にこの穴に速度計や燃料計、ハンドルやシフトレバーを取り付けるからである。

 

 

 

 

このあたりになってくると、お客様の目に触れる部分が大半になってくるので失敗は許されなくなってくる。

 

 

 

僕が今まで開けてきたところは例えばタンクの穴であったり、ホースの穴など、修理とかで船をバラした時などよっぽどのことがない限り人の目に触れられないところで、そういうところは普段お客様も目にしない。ある程度はズレなどが容認される箇所なのだ。

 

 

 

 

そう、なのでここでは失敗は絶対に許されN…

 

 

 

 

チュイーーーーーーーーーーン、ガガガガガ…!

 

 

 

 

 

あ…。

 

 

 

 

 

 

数々の穴を開けてきた僕にはわかる。

 

 

 

 

これはね、全然違うところに傷がつきましたね、はい。

 

 

 

 

 

とんでもない量の冷汗が全身を伝う。

 

 

 

 

こんな時に魔法があればちょちょいのちょいなんですけどね、生憎と僕は生粋のマグル。

 

 

 

 

 

もう完全にお手上げである。

 

 

 

 

 

 

僕はハリー(改)に助けを求めた。

 

 

 

 

ハリー(改)「なるほど・・・。ちょっと実際に速度計をはめ込んでみよう。」

 

 

 

 

 

ハリー(改)は静かに速度計を手に取り、傷近くの穴にはめ込んだ。

 

 

 

 

ハリー(改)「…うん!ぎりぎり隠れるね!大丈夫だ」

 

 

 

 

 

グリフィンドオオオォォーーーール!!!!

 

 

 

 

どうやら、こういった計器類などは取り付け時に穴をふさぐためにある程度のマージンをとっていて、多少のズレは修正できるようになっているようだ。

 

 

 

 

 

ハリー(改)のお蔭で首の皮一枚繋がった。

 

 

 

 

 

その後は気を付けながら穴を開けていき、なんとかこの工程は無事に終了。昼休憩に入る。

 

 

 

 

 

 

ロビン「よぉ、マイケル。お前は今どこの工程にいるんだァ?」

 

 

 

 

僕「今はアセンブリーにいるよ」

 

 

 

 

 

ロビン「ア、アセンブリー!?あそこはエリート達が集う工程。俺たち有象無象と違い、スペシャリスト達が作業をしている・・・。お前もそこの仲間入りと言う訳か。マイケル!お前がどこまで上り詰めるのか…楽しみになってきたぜ。」

 

 

 

 

僕「おう!!(まぁ、ここでずっと働かないけどな)」

 

 

 

 

 

午後からは次の工程へ移動する。

 

 

 

ここでは速度計や燃料計などの電装機器の取り付けを行う。

 

 

 

 

作業場へ行くとなるほど確かにここの作業員の者と思われる何かの資格の認定証がいくつか飾ってある。あながちロビンの言ったことも間違いではなさそうだ。

 

 

 

 

 

さっそくチームリーダーに挨拶をしに行く。

 

 

 

 

僕「マイケルです、よろしくお願いいたします。」

 

 

 

 

チームリーダー「よろしく。ここでは二人の作業員の仕事を見ててもらう。実際の作業は資格がいるからな。おい、チャド!アントニー!来てくれ!」

 

 

 

 

 

 

え、

 

 

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 チャドと

 

 

  

 

 

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アントニーだって!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここからは特定の資格を有していないと作業できないようなので、主に作業を観察しながら分からないことがあれば質問していく。

 

 

 

チャドは電装関係、アントニーはエンジン回りの作業を行う。

 

 

 

しばらく質問しながら作業をしていくうちに雑談も交じってくる。

 

 

 

そんな中、チャドからこんな質問を受けた。

 

 

 

 

 

チャド「マイケル、お前KANJIは分かるか?もし、分かるんだったら俺の腕にあるタトゥーがなんて書いてあるのか教えてほしいんだ!掘ったときはウォーリアーみたいな意味合いだと説明を受けたんだけど・・・こいつだ。」

 

 

 

 

 

滝  祥   

 

 

 

 

 

 

まぁ、嫌な予感はしてましたよね。最悪の最悪「戦」とか「武」とかが入ってたらもう超甘々判定でウォーリアー認定しようと思ってたんですよ。最悪の最悪の最悪、もう多少のミスで「士」じゃなくて「土」でもまぁ、オッケーかなと。

 

 

 

 

滝  祥

 

 

 

 

たった2文字の漢字が無言のプレッシャーをかけてくる。なんというか、もはや「戦士に言葉は要らない、その態度で己を示せ」と言っているよう。

 

 

 

 

もうでもね、違うんですよね。例えば「戦士」が格闘タイプだとしたら明らかに「滝  祥」は水タイプですもんね。

 

 

 

 

カイリキーとゼニガメくらい違う訳ですよ。

 

 

 

 

僕はチャドに言った。「滝」はあの流れる滝であること。そして「祥」に至ってはもう意味も分からない、と。

 

 

 

 

チャドの眼からみるみると生気が消えていくのが分かった。

 

 

 

 

もやっとしたまま、その日の作業は終了した。

 

 

 

 

8日目、9日目は特にこれといったことはなく、同じようにアセンブリーの作業の見学に勤しむ。もやっとした感情を抱きながら。

 

 

 

 

10日目:

 

 

 

ボート工場も残り二日。佳境である。

 

 

 

午前中はボートの出荷前の清掃作業を行うことに。

 

 

 

ゴーストバスターのような重装備をしているおばちゃんの下で雑巾がけ等をこなしていく。

 

 

 

意外と最終工程でもファイバーグラスのカスやらなんやらが残っている。これらをきちんと手作業で清掃して初めてすべての工程が完了する。

 

 

 

自分も営業時代雑草抜きからキャリアをスタートさせたと言っても過言ではない。自然と力が入る。

 

 

 

しばらく下っ端根性を見せていると、社長が声をかけてくる。

 

 

 

社長「マイケル!休憩室に来てちょっと手伝いな!」

 

 

マイケル「はい!!!!!!」

 

 

下っ端の僕は元気いっぱいに返事をする。

 

 

 

マイケル「なんでしょう?」

 

 

社長「今日はあんたの送別会も兼ねたパーティだ。大量にピザを注文した。みんなに配るから手伝いな!」

 

 

 

マイケル「了解しました。何人前頼んだのですか?」

 

 

 

社長「XLサイズを150枚頼んだ。」

 

 

 

マイケル「え!?」

 

 

と、驚くと同時に宅配バイクではなく、クロネコヤマトクール宅急便のトラックと同サイズのトラックが休憩室前の空き地に入ってくるのが見えた。

 

 

 

中身は勿論ピザである。

 

 

次々と運ばれてくるピザ。

 

 

もうなんというか匂いとかがエグイ。が、休む間もなくセッティングを行っていく。

 

 

 

社長「よし、マイケル。皆列を作ってピザを受け取りに来るから配っていってやってくれ。配り終わったら私から簡単な挨拶をする。その後お前が挨拶をするんだ」

 

 

マイケル「了解です。なんか考えておきます。」

 

 

そうこうしているとお昼休憩の時間となった。次々と入ってくる屈強なワーカーたちにピザを配る。

 

 

配り終えた後、社長がにらみを利かせていたからか皆おとなしく席に座り、社長が話すのを待つ。

 

 

全員座り終えたのを確認し、社長が話し始める。

 

 

社長「皆!お疲れさまだ。皆知っての通り今日はマイケルの出社最終日だ。マイケルが皆に感謝の気持ちを示したいという事でこれだけのピザを用意してくれた。マイケルのおごりだから皆礼を言うように!また、これからマイケルのスピーチがあるが、最後にマイケルから最も頑張っていた従業員、MVPを発表してもらう。それではマイケルどうぞ!」

 

 

 

あのー…わずか1分くらいに新情報を盛り込みすぎじゃないですかね??

 

 

 

いや、まず今日最終出社日なの!?あ、明日は!?

 

 

 

あとピザ!!これ何、僕のおごりなの!?

 

 

 

あとMVPって何!?え、なにを基準に選ぶの!?

 

 

 

 

 

マイケル「えー、皆さま短い間でしたがありがとうございました。今回の経験は私にとって…」

 

 

 

とりあえずすべての疑問を飲み込み話し始めることにした。

 

 

マイケル「…であるからして~…(とりあえず最終出社日かどうかはあとで確認しよう。この際どっちでもいいや。ピザはたぶん会社に言えば後で払ってくれる…よなー…?問題はMVPかー…うーん…どうしたものか…)」

 

 

 

頭をフル回転しながらっぽいことをひたすら話す。

 

 

マイケル「では、最後にMVPを発表します。MVPは…」

 

 

人事のおばちゃん、ジョッシュ、ロビン、シャワーの事を教えてくれたじいさん、ジョジョ、サンディングのリーダー、スティーブ、ケビン、ハリー(改)、チャド、アントニー、ゴーストバスターのおばちゃん、その他工場で働いているスタッフたち。お世話になった人達の顔が次々と浮かんでいく。そんな中一人の顔が色濃く浮かび上がった。

 

 

 

 

マイケルは「MVPはチャドです!!」

 

 

 

皆「うおおおおおおおおお!!!!!」

 

 

 

湧き上がる室内。ふとチャドの顔を見ると心なしか少し顔に生気が戻った気がする。良かったよかった。

 

 

 

社長「マイケル。ちなみに授賞理由はなんだい?」

 

 

 

マイケル「え!?え、えーと、なんというか・・・戦士・・・だから?」

 

 

 

心なしかチャドの顔から生気がまた無くなって行った気がした。

 

 

 

 

 

 

 

パーティ後僕は社長のもとに行き、もう一つの疑問をぶつけた。

 

 

 

マイケル「社長、すいません僕最終日明日だと思うのですけど・・・?」

 

 

 

社長「あー、それだがな。実は作業日程的に明日はほとんどの工程が動かないことになって一部の工程を除いて休みになったんだ。だから今日が最終日だ。明日はオフでいい。もし観光とかに行きたいなら行けばいい。なんなら会社に言って口裏合わせ手もいいぞ?」

 

 

 

マイケル「ほ、本当ですか!?じ、じゃあ…」

 

 

 

ここでふと思い出す。

 

 

 

先週の土日を。

 

 

 

 

何をしたか。(できなかったか)

 

 

 

何があったか。(なかったか)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…うん、やること…ないな!

 

 

 

マイケル「…いえ、やはりまだまだ勉強したいので明日も出社させてください…。」

 

 

 

社長「そ、そうか…まぁ、好きにしてくれ。私は明日は出社しないからな・・・お疲れさま!!」

 

 

マイケル「お疲れ様でした・・・。」

 

 

 

 

11日目:

 

 

誰もいない工場で1日中ひたすら写真を撮りまくったとさ。

 

 

 

おわり。